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東京高等裁判所 昭和42年(ラ)477号 決定 1967年9月05日

抗告人 高田直輔

右代理人弁護士 鷲野忠雄

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨および抗告理由は、末尾添付別紙記載のとおりである。

抗告人の主張は要するに、「抗告人の本件申請に係る差押命令および転付命令の各対象たる債権は、相手方森朝泰が第三債務者高野金治郎に対して有する右両名間の確定判決に基く約束手形金債権である。この債権は確定判決に基く確定債権であるばかりでなく、右手形は、拒絶証書作成期間経過のためその裏書には指名債権譲渡の効力しか認められないし、かつ満期后三年の時効期間さえ経過しているから、右手形金債権は、もはや証券との結合関係が消滅したもので、民訴六〇三条にいわゆる『……証券に因れる債権』には該当しないものというべきである。したがって、右債権に対する強制執行については、右法条の適用はなく、一般の債権に対する差押命令および転付命令に関する規定を適用すべきであり、右と異なる見解に基いてなした原決定は取消を免れない。」という趣旨に帰する。

しかし、たとえ手形金債権が確定判決により確定されたとしても、その結果は、単に右債権についての時効期間が一〇年に延長され(民法一七四条の二参照)、かつ既判力、執行力等が生ずるだけのことであって、なんらこれにより新たに別個の債権が生じ、または従来の手形金債権が手形金債権たる性質を失うような効果を生ずるものでないことは、いうまでもない。例えば、手形金の支払を命ずる確定判決があった場合においても、これに基く強制執行または裁判外の弁済にあたり、債務者は、当該手形と引換でない限りその履行を拒絶することができるのであって、(大審院昭和八年五月二六日判決、民集一二巻一三五三頁の判文参照)、単に確定判決があった一事により、右債権が手形金債権たる性質を失ういわれはないのである。さらに抗告人は、本件手形は拒絶証書作成期間を徒過し、かつ時効期間が満了している旨主張するけれども、たとえそのような事情があったとしても、それがため、右手形が指図債権ないし受戻証券たる性質を失い、または右手形金債権が手形金債権たる性質を失うべきものでないことは、当然である。その他本件においては、手形を占有しないでも手形債権を行使できると認め得る特段の事由(例えば、本来ならば手形債務者が債権者に保有させる義務のある手形が、たまたま手形債務者の占有に帰しているというような特別の事情、なお最高裁判所昭和四一年四月二二日判決、民集二〇巻七三四頁のような場合参照)について、なんら主張立証がないから、本件手形金債権は民訴六〇三条所定の債権に該当するものというべく、したがって右債権に対する強制執行をするには、右法条所定の手続を経ることを要するものといわなければならない。以上と所見を異にする抗告人の主張は採用し難い。

よって本件抗告を理由なきものと認め、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 兼築義春 判事 高橋正憲 柏原允)

<以下省略>

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